【掌編】日陰に咲く向日葵
日陰に咲く向日葵
都内にある小さなレコードショップの入口付近で、あたしは手鏡を見ながらいつも以上に身なりをチェックしていた。
学校では大人しくて地味なあたし。
だけど、今日は特別な日だから思い切ってお洒落をしてメイクをした。
「ーー間もなく、サイン会が開催されます! 整理番号順に並んで下さい!」
店員が大きな声で整理番号を読み上げた。
今日は大好きなバンドのサイン会。
このレコードショップでアルバムの初回限定盤を予約してサイン会の整理券を手に入れたの。
店員の点呼が終わると、みんなその時をそわそわしながら待っていた。
「それではどうぞ!」
ステージに立つ時と違って、ラフな格好をしたメンバーがぞろぞろとやって来た。
皆で拍手をして彼らを出迎えた。
彼らが用意されたパイプ椅子に座ると、あたしはサインを書いてもらおうと慌てて歌詞カードを取り出した。
歌詞カードの余白に、サインを書いてもらう。
ほんのわずかだけど、話が出来るのがサイン会の醍醐味だ。
ボーカル、ギター、ベース、ドラムの順で進んでいくのだけど、最後のドラムのあなたの前になった途端、あたしの鼓動は暴れ出した。
「あの、大好きです」
「ありがとうな!」
昨夜に書いた手紙を差し出すと、彼は嫌な顔をせずに笑ってくれた。
当たり障りのないその笑顔は、所詮は営業でしかない。
あたしなんて、大勢のファンの一人でしかないんだ。
あなたの心に入り込む時は一生訪れない。
それでも、あたしはあなたに恋することを辞められないの。
だって、あなたを思いながら過ごす日常が幸せなんだもの。
後悔なんてしていないわ。
学校では大人しくて地味なあたし。
だけど、今日は特別な日だから思い切ってお洒落をしてメイクをした。
「ーー間もなく、サイン会が開催されます! 整理番号順に並んで下さい!」
店員が大きな声で整理番号を読み上げた。
今日は大好きなバンドのサイン会。
このレコードショップでアルバムの初回限定盤を予約してサイン会の整理券を手に入れたの。
店員の点呼が終わると、みんなその時をそわそわしながら待っていた。
「それではどうぞ!」
ステージに立つ時と違って、ラフな格好をしたメンバーがぞろぞろとやって来た。
皆で拍手をして彼らを出迎えた。
彼らが用意されたパイプ椅子に座ると、あたしはサインを書いてもらおうと慌てて歌詞カードを取り出した。
歌詞カードの余白に、サインを書いてもらう。
ほんのわずかだけど、話が出来るのがサイン会の醍醐味だ。
ボーカル、ギター、ベース、ドラムの順で進んでいくのだけど、最後のドラムのあなたの前になった途端、あたしの鼓動は暴れ出した。
「あの、大好きです」
「ありがとうな!」
昨夜に書いた手紙を差し出すと、彼は嫌な顔をせずに笑ってくれた。
当たり障りのないその笑顔は、所詮は営業でしかない。
あたしなんて、大勢のファンの一人でしかないんだ。
あなたの心に入り込む時は一生訪れない。
それでも、あたしはあなたに恋することを辞められないの。
だって、あなたを思いながら過ごす日常が幸せなんだもの。
後悔なんてしていないわ。