難攻不落な彼に口説かれたら
10、怪我した彼女 ー 仁side
「雪乃ちゃん、ゆっくりでいいよ」

会社の前でそんな声が耳に届いて後ろを振り返ると、タクシーから降りる雪乃の姿が目に映った。

朝からタクシー?

不思議に思っていると、雪乃の後から専務秘書の田中さんも降りてきて雪乃に手を貸す。

じっと見ていると、雪乃は足を引きずるようにして歩いていて……気づけば彼女を下の名前で呼んでいた。

「雪乃、足どうしたの?」

雪乃に近づいて声をかけると、彼女は気まずそうに俺に目を向け声を潜める。

「か、片岡君……名前!」

「今はそんなこと気にしてる場合じゃない。足どうしたの?」

雪乃は隣にいる田中さんを気にしていたが、俺は雪乃の足の方が心配だった。

「駅の階段で転んで捻挫しちゃった。私ってホントドジだよね」

雪乃は苦笑しながら答える。
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