臆病者で何が悪い!
11. ただの同期に戻る時

待って――。

『俺は、真剣におまえと向き合っていた。それこそ俺の心全部で』

ごめんなさい。お願いだからもう一度私と――。

『だからこそ今回のことで、身体が急に冷えて行くように、おまえへの感情もすっとなくなって』

お願いだから――。

『冷めたんだ』

「――いやっ!」

私に背を向ける生田が消えていくのを、必死で掴もうと手を伸ばした。

――あ。

重い瞼が勝手に開く。突き上げた手が、暗い天井に向かって虚しく浮かぶ。

また、同じ夢――。

まだまだ寒い初春の深夜、部屋はひんやりとしているのに、私の額にはいくつもの汗の雫があった。ここのところ毎日、同じ夢を見る。
以前とは全然違う、赤の他人を見るような目で生田が私に言うのだ。『もう冷めた』と。
せめて寝ている間だけでも生田のことは忘れていたいのに、それさえもさせてくれない。ただでさえ寝ていられる時間は短いというのに、絶対に私を逃がしてはくれなかった。それも、生田を傷付けた罰なんだろう。

ベッドサイドにある置時計を見ても、時計の針はまだ3時を過ぎたところ。

もう一度寝てしまいたいけれど、頭だけが異常に冴えわたっていて眠気はまったく感じられない。きっとまた今日も、このまま朝を迎えるんだろう。数日同じことを繰り返しているから、もう諦めもついている。廃人のようにただベッドに横たわり、何もない天井を見つめていた。

職場に行けば、その姿を近くに感じなければならない。自分の感情がどこに向かっているのか分からないままでいるこの状態は、酷く私の精神をすり減らしていく。なるべく視界に入れないように、そうやって身体を強張らせて一日を過ごすことしか出来なかった。
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