早速昼休みに社長秘書の林さんからメールがきた。

食事会のセッティングをするから私の予定を知りたいというものだった。

そんな、いきなり心の準備ができるはずもなく今週は無理だと返信した。

続いて来週の予定を聞かれ、行くつもりはなかったけど由衣子に誘われていた合コンがあったなと思い出し、部内の送別会もあったから、これまた厳しいと逃げた。

そんなやりとりを数日間にわたって何度か繰り返していていたが、社長からも社長秘書の林さんからも逃げられるはずはなかった。

もう少しでお昼休みになるという頃、私はパソコンと戦っていた。課長から頼まれた急ぎの資料を作成していたのだ。

部内がざわざわとし始めたような気がするけど、そんなことより私は資料作成。
今日もタヌキのせいで忙しい。

無視していると「おーい、早希さぁん」と部長が私を呼んでいる。

「何でしょう?急ぎですかぁ?」と部長には視線を向けることなくパソコン画面に向かったままいつも通りに返事をする。

「そうなんだよ。早希さん、ちょっとお願い」

えー、これ急ぎなのに。

「ぶちょおー、それはぁ、この資料より急ぎなんですかぁー?」

視線はパソコン画面のまま返事をすると私の背後に誰かが立った気配に気が付いた。

顔を上げてその人を確認した私は凍り付いた。

「は、林さん・・・」

林さんは銀縁の眼鏡の縁を曲げた右手の第一関節で軽く押し上げ私に微笑んだ。
眼鏡の奥に見える瞳は当たり前だけど、笑っていない。