ローゼがまだ目を腫らしたまま実家の農園に戻ると、心配でずっと見ていた母が迎えてくれた。
馬を繋いでいる間も泣き続ける娘を見て、母はその華奢な体を抱きしめる。


(土のにおいがする……)


ローゼが幼いころから馴れ親しんだ香りだ。
物語の世界にあこがれ、キラキラした貴族のお屋敷に魅力を感じている反面、懐かしいと思うのはこういった自然の香りだ。家に戻って来たのを実感出来て、途端に心が落ち着いてきた。

母親はローゼの呼吸が落ち着いてきたのに気付くと、彼女を離して下から顔を覗きこんだ。
百六十五センチあるローゼは小柄な母親よりも十センチほど背が高い。


「急に帰って来てなにかあったの? そんなに泣いて。仕事が辛いなら、戻ってきていいのよ」


皮が厚くなったごわごわした手で、母はローゼの頭を撫でる。


「違うの、ママ。違うのよ」

「違くないでしょう。あなたに貴族のお屋敷なんて無理だったのよ」

「無理じゃないわ」


ローゼはむきになって反論する。
無理じゃない。まだ雑用ばかりだけれど、仕事はちゃんとしていた。
ディルク様だって、仕事ぶりは評価できるって……。

彼のことを思い出して、悲しくなると同時に、男爵家のお家断絶について聞いてみたかったのだと思いだした。
ローゼはさっと頬の涙をぬぐって、母親に詰め寄った。

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