「ディルク、ブランデーを用意してもらえるかな」


片付けの使用人たちが出入りする広間で、フリードはディルクを部屋の端まで手招きした。
ギュンターにはエミーリアとともに、先に小ぶりの応接室へと移ってもらっている。
これから、ゆっくりと内密の話をするつもりだった。

ディルクは黙ったまま彼に近づいたが、「怒っているだろう」と悪戯を仕掛けたような顔で問いかけられ、思わず苦笑してしまった。


「分かっているなら何故こんなことを? 私に何を隠してらっしゃるんです。ギュンター様との視察は来週で予定していたはずですよね。急に変更になったとしても昨日までには分かる話でしょう。あなたは敢えて私に言いませんでしたね?」

「隠すつもりはないんだが、お前に言うと止められるかと思ってな」


ディルクは片眉を上げて彼を見た。フリードは苦笑したままディルクの次の言葉を待った。


「私が反対するようなことをやるつもりなんですか?」

「男爵位を取り戻すことを望んではいないんだろう?」


ディルクは思い切り不機嫌をあらわにして「は?」と声を絞り出した。が、同時にフリードに目をそらされたので、不快なのが通じたかどうかは定かでない。


「お前も、ギュンター殿が第二王子クラウス様と懇意なのは以前夜会で見て知っているだろう? これを機会に第二王子とつながりを持てれば、爵位復活の話がしやすくなる。まずはギュンター殿のほうからさりげなく話を通してもらおうと思ってな」

「何を考えているんですか。男爵位なんてもう……」

「お前が爵位を望んでいないのは知っている。俺も、爵位にこだわっているわけじゃないんだ。取り戻したいのはドーレ男爵家の名誉。引いてはお前の名誉だ」


フリードがディルクの肩にポンと手をおく。そのしぐさからは親しさは愛情が感じられて、ディルクは言葉が出なくなる。

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