結局、部屋に戻ったローゼは興奮したまま着替えるのを忘れ、「くしゃん!」と止まっていた咳がぶり返したところで、自分の体がすっかり冷え切っていることに気付いた。
急いで着替えている途中でジルケが起き、怪訝そうな顔でローゼを見る。


「ローゼ、顔が赤いけど大丈夫?」

「へ、平気よ」

「嘘。なんか息も荒いわ。……熱があるんじゃないの?」

「大丈夫」


すっかり汗を吸った夜着を洗わなければいけないし、ディルクのガウンも洗って返したい。通常の仕事が始まる前に済ませてしまいたいのだ。寝ている暇などない。

しかし、ジルケが額に手をあて、首を振った。


「だめよ。病人が頑張っても失敗するだけよ。私からナターリエ様に言っておいてあげる」

「でも」

「奥様ならそういうはずよ。私も昔風邪を押して働いたことがあるけど、怒られたわ。体調が悪いときは休むのが仕事だって?」

「そうなの? ……でも」


かつて貴族の屋敷で侍女として働いたことのある母からは、病気になってもなかなか休めなかったと聞いたことがあったので、ローゼは戸惑う。


「他のお屋敷は知らないけれど、フリード様の代になってからは使用人に優しいわよ。ディルク様がいるお陰で目が届くっておっしゃっていたわ。それでも前は古参の人たちから文句を言われていたらしいんだけど、エミーリア様が来てからはそれも無くなったの。なにか言ってくださったのかも知れないわ」

「そうなんだ」


たしかに話しているうちに再び体が震えてきた。「じゃあごめん。ちょっとだけ」とベッドに入る。

「後で様子を見に来るね」と言ってジルケが出て行ったとたんに、気が抜けて眠りに落ちてしまった。


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