王城は国境にあり、背後に広がる王都を護るように、崖を縁どって横に長く伸びている。中央と両端に見張りの塔が建ち、間を埋めるようにパラスと呼ばれる居住用の棟が走っている。

西のパラスの中に、フレデリカは部屋をあてがわれた。

聖書や愛用の鏡など、数少ない私物を棚に収め、寝台に腰かけた。飾り気のない木の寝台は、寝るには不足なさそうだが、それ以上のなにももたらしてくれそうにない。

たとえば安らぎとか、楽しさとかだ。

王城は全体的に冷たい。フレデリカは感じていた。

なぜかしら、と考えながら、首を伸ばして小さな窓の外を覗く。国境の外を向いている窓だ。この壁は城壁を兼ねており、窓の外と内に人が立って手を伸ばし合っても届かないくらい厚い。構造上、日は差し込まない。

光は内廊下の側から入ってくる。扉の上に採光用の窓があるのだ。廊下は吹き抜け構造になっており、遥か頭上から幾本かの梁を経由して、ようやくここまで光を届けているといったところだ。

だがこの物理的な暗さだけが、冷たさの原因とも思えない。

ルビオ。

心の中で呼びかけた。

あなたはいるだけで、まわりを明るくする人だったのに。どうしてここは、こんなに暗くてよそよそしいの。

もうルビオじゃないの? 記憶を取り戻し、代わりに村のことも私のことも忘れ、ディートリヒ二世陛下になってしまった?

謁見のとき、目が合った一瞬、ルビオの顔にも驚きの色が走ったように思えた。だが気のせいかもしれないとも思った。


『王女は幼い。そなたの与える影響の少なからんことを忘れぬよう』


ルビオの言葉はそれだけだった。フレデリカへの期待とも、釘を刺したとも取れる内容で、平板な声にはなんの感情も表れておらず、返事を待ってもいなかった。


『仰せのままに』


フレデリカがそう答え終わるか終わらないかのうちに、彼は踵を返し、入ってきた戸口から出ていった。

人嫌い。そう噂されるのも当然だ。

フレデリカは自分でも意外なことに、若き新王がルビオだったこと自体には、さほど驚いてはいなかった。

一年前に彼を連れ去った騎兵たちの、無条件に畏怖を誘う気配は、ルビオの正体が王室に関係があると推測させるに十分だったからだ。

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