気高き国王の過保護な愛執
まさか国王その人とは思っていなかったが、あの時点ではルビオは、王子だったということだ。それなら想像の範囲内だ。

いや、そうでもない。王子がなぜ矢傷を負っていたのか。

今の国王は先代の第二王子だ。そのくらいは国民の常識として知っている。つまりルビオには兄王子がいた。なぜ兄王子のほうが王位を継がなかったのか。

頭は冴えているようでいて、やはり突然の再会に混乱している。どうにも思考が滑る。フレデリカはひとつ息をつき、明日に備えて休む準備を始めた。


* * *


「イレーネ様!」


果てなく続くと思われる王城内の敷地内を練り歩き、フレデリカは呼びかけ続けた。まるでかくれんぼの鬼だ。それも圧倒的に不利な鬼。しかもそもそもかくれんぼをすることにすら同意した記憶はない。理不尽だ。


「イレーネ様!」


脇の回廊からくすくす笑いが聞こえてきた。クラウスだった。


「さっそくご苦労されていますね」

「はあ。力不足で申し訳ありません」


謙虚に言ってはみたものの、怒気が滲み出ていたに違いない。クラウスは気の毒そうに言った。


「王女は先王のただひとりのご息女です」

「わがまま放題でお育ちになったということですね。いたっ!」


草むらからなにかが投げつけられ、フレデリカの後頭部をぽこんと打った。足元で弾んでいるのは、樹液を固めて作った小さな球だ。

かーっと頭に血が上るのを感じ、その勢いのまま草むらに突進した。だがそこにはもう、人影はなかった。

少女の楽しそうな笑い声が、あっちからこっちへと移動する。ガヴァネスとして仕事を始めてからもう四日。一度たりともイレーネ王女の姿を見ていない。

実は王女なんていなくて、王城に棲む妖精かなにかなんじゃないのか、と不敬極まりないことを考え始めていたところだった。


「王女のガヴァネスは、あなたで六人目です!」


廊下から声を投げかけ、クラウスは薄情にも行ってしまった。つまりみな長続きせず、解雇されたか逃げ出したかなのだろう。

こうなったら、最後のひとりになってやろうじゃない。

生来の負けん気が顔を覗かせ、フレデリカは誰にともなく、固く誓った。

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