こうなったら、なにがなんでもガヴァネスを解雇されるわけにいかない。自分は王城に、ルビオのそばにいなければならないのだ。

そのことに気づいたフレデリカは翌日、決意も新たにイレーネ王女の捕獲に乗り出した。




「きゃーっ!」


茂みに足を踏み入れた瞬間、ヘビが飛びかかってきた。持っていた本を振り回してから気がついた。ヘビじゃない、ただの重りのついたリボンだ。

ほどよく重みのある生地のリボンで、手で持って動かしてみても、ヘビが跳躍するときのあの感じがよく出る。

足元をよく見たら、細い糸が落ちているのを見つけた。おそらく周囲の木に渡され、引っ掛けるとヘビが発射される仕掛けが施されていたのだ。


「イレーネ様」


もう何度呼んだかわからない名前を呼んだ。


「イレーネ様、お気に召さないのはお勉強ですか、それとも私ですか?」


姿は見えないが、すぐそばにいる気配を感じる。


「この罠、一度かかったらそれきりじゃなく、何度でも繰り返し使えるようにしたいとはお思いになりませんか? 一緒に方法を考えませんか?」


小さな姫はあきらかに、茂みのどこかに潜んでいる。はっきりとそれを感じたが、態度に出さないようにした。

フレデリカは作り物のヘビを手でもてあそびながら呼びかけた。


「私から学ぶことはないとお考えでしたら、イレーネ様がご存じのことを、私に教えてください。なにがお好きですか? ちなみに私は薬草学と歴史です」


はっと足を止めた。

数歩先に、突然少女がひとり、立っていたのだ。

どこから現れたのか、まったくわからなかった。フレデリカの胸あたりまでの背丈に、明るい金色の巻き毛、そばかすのある白い肌。きゅっと目尻の上がった大きな瞳は賢そうで、フレデリカは、なんだやっぱり妖精だった、と考えた。

そして顔には出さないものの、笑ってしまった。ルビオによく似ているからだ。

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