「よく見せてくれ」

彼はセシルの手首を取り、そっと顔から外す。
艶やかな黒髪はもとより、白い肌も、漆黒の瞳も、長い睫毛も、ほの朱い唇も、今セシルのすべてがあらわになってしまっている。
まじまじと見つめられ、セシルの頬は熱く紅潮し、瞳には涙が滲んだ。

だが彼はピンク色に染まった彼女の顔と潤んだ瞳を眺めながら、ほうっと息をつく。

「美しいな。そんな顔をされては、口づけたくなる」

セシルは慌てて顔を背けた。
どんなに愛しい人が相手だとしても、嫁入り前の娘が見知らぬ男性と口づけだなんて。お父様が泣いてしまう。

「わ、私は素顔を見せたのに、貴方様は見せてくださらないのですか!?」

ごまかそうと必死にまくし立てたのだが、彼は瞳を柔らかく細めただけだった。

「そうだな。こんな仮面をしていては、唇も奪えない」

彼はゆっくりとその仮面を外した。
一瞬だけ見えた素顔は逆光で、半分は影を落としている。
かろうじて視認できたのは、すっと通った鼻筋と、意思の強そうな瞳、精悍な顔立ち。

しかし、セシルがそれをよく目に焼きつける前に。
すかさず近づいてきた彼が、セシルの唇を塞いでしまった。

目の前に白金の前髪が揺れる。
同じ色の長い睫毛が、深蒼の瞳の上でわずかに瞬く。

温かく、柔らかい。初めて知った、情愛の感触。
口づけは角度を変えて幾度となく落とされ、緩慢な動きでセシルの唇は弄ばれる。