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「花好きの男とは、女々しいと思うか?」

「いえ。素敵だと思います」

初めてふたりが出会った舞踏会の夜。

誰もが一夜の享楽に身を投じている間。彼らは庭園の花々を眺めながら、和やかな時間を過ごしていた。

「紅い薔薇の花ことばは『情熱的な愛』」

「そんなことまで知ってらっしゃるのですね」

「花ことばを知らなければ、女性に花を送れないだろう」

「……花を送りたい女性がいらっしゃるのですか?」

「祖母だがな」

「おばあ様に情熱を誓うのですか?」

クスクスと笑いながら、セシルは薔薇に手を伸ばす。
しかし――

「っ痛!」

意図せず棘に触れてしまって、セシルは慌てて手を引っ込めた。

「見せてみろ」

「大丈夫です。これくらい……」

ぷっくりと小さな血の玉が膨れ上がる人差し指を、彼は優しく唇に含む。
セシルの胸が大きく鼓動を刻み、頬がじんわりと熱くなる。

「貴方を傷つけるなんて、悪い花だ」

囁きながらも彼はセシルの指先を食んでいて、唇の感触が伝わってくる。

「……花に罪などありません。悪いのは急に触れようとした私です」

彼の姿を見上げながら、セシルの声は緊張でわずかに震えていた。

「私だって、急に触れられたらびっくりしてしまいますもの」

それは今の自分自身。
意図を察した彼が、仮面の奥の瞳を訝しげに細める。

「……俺も棘で刺されてしまうのか?」

「……いいえ。貴方様のことは、花を摘むような悪い人ではないと信じていますから」

仮面の奥の深蒼の瞳が、ふっと柔らかくなるのを感じた。

血が止まったあとも彼はその手を、いつまでも離してはくれなかった。


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