意地悪な彼ととろ甘オフィス


「あ。日向。営業課との今日の合コ……じゃなくて親睦会、十九時集合に決まったから!」

この会社に勤めて三年目になる私より、四年も長く働いている須永先輩が明るい声で告げる。

本人は〝いけないいけない〟って舌を出してごまかしているけれど、親睦会なんていうのは名前だけで、その内容が実は合コンだということを悟る。

データ入力していた私の隣の椅子を引いた須永先輩が嬉しそうな笑みを向け、こそっと耳打ちしてきた。

「なんと! 聞いて驚け!」と前置きされる。

「成瀬さん、出席してくれるって! ……あれ。なんで驚かないの?」
「あんな前置きされたら身構えちゃって驚けませんよ」
「なんでよ。合コ……じゃなくて親睦会にあの成瀬さんが来てくれるのよ。驚くとこでしょう」

さっきから健気に誤魔化そうとしている須永先輩に「もういいですよ。合コンで」と呆れて笑うと「あ、そう?」とわざとらしい〝てへぺろ〟をされる。

須永先輩は、外見の綺麗さや気さくさから男性社員に人気があるけれど、同性の私から見ても可愛らしい人だ。

「楽しみよねぇ! もう、誘い出すの苦労したんだから感謝してよね! なんたってあの美形だもん。そこらじゅうの女性社員から声がかかっているであろうなか、約束とりつけたんだから! 私ってすごくない?」

それはそれは大手柄みたいに言う先輩に、ははっと乾いた笑みを返す。

完全な愛想笑いだっていうのに、先輩はそんなことは気にも留めない様子で「でも」と首を傾げる。

「どうして誘いを受けてくれたのかしら。〝総務課〟って出した途端、『いいですよ』って返事されたけど……うちの課は、成瀬さんと関わることってあまりないのに」

さっきから須永先輩が繰り返し言っている〝成瀬さん〟というのは、本社から半年という期限付きでうちの支店に出向してきている成瀬響哉だ。


< 1 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop