こけしの恋歌~コイウタ~
~~~成瀬翔吾side~~~
◇◆◇◆◇◆


「常務、お疲れ様でした」

「成瀬くん、今回も世話になった。ありがとう」

常務は迎えの車に乗り、空港を後にした。

俺はタクシーに乗り込み、行き先を告げると目を伏せた。
いくら鍛えていても、長時間のフライトは体に堪える。
このまま会社に一度顔を出そうかとも思ったが、明日から通常業務に加えて、謝恩会の準備もある。
連日残業になることを考えて、今日は直帰することにした。

目立った渋滞もなく、車の流れはスムーズだ。
目を開けて、窓の外の見慣れた都会の景色をぼーっと眺めていると、スマホが鳴った。

「帰国早々なんだ?」

思わずフッと笑みがこぼれる。

『長旅お疲れ様です。報告は早いほうがいいかと思いまして』

「さすが市川」

電話の相手は俺が最も信頼している腹心の部下、市川だ。
出張で留守にする間、なにかあればこうして細かく連絡してくる。

『総務部はてんてこ舞いですよ。やっぱり課長がいないとダメですね~。まぁ、それでもみんな頑張ってますよ』

「おいおい、いつまでも俺を頼らないで、お前がまわしていけよ」

『課長、冗談やめてくださいよ~』

市川はケラケラと笑っている。
いや、あながち冗談でもないんだが。
いずれ、俺の後任は市川に任せようと考えている。




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