契約の彼女と彼の事情

12話

「さばですね」

おばあ様と修一郎さんが、言い争った末、
連れてこられたのは台所だった。

さすがにキッチンは最新式で、
かまどなんてなくてよかったと胸を撫でおろす。

そこで用意されていたのは、さばの切り身が3切れ。

「妻になるなら料理ぐらいできないと」

「だからって、今日、急に言う事ないだろう」

周防家には、意外な事にお手伝いさんはいず、
時々庭師や掃除の専門家が来るぐらいで、
全ての家事をおばあ様がしているとの事だった。

これは、おばあ様が他人の手を借りる事を、あまり良しとせず、
自分が家を守るという、強い気持ち故だった。

「醤油と味噌、どっちがいいですか?」

キッチンをきょろきょろしながら答える、

言い争っていた2人が、ぴたりと口をつぐんだ、

「醤油かね」

おばあ様が答える。

「分かりました」

「舞、無理しなくても」

どこかおどおどして、修一郎さんが答える。

「キッチンは女の城です、居間ででも待ってて下さい」

そう言うと、はい、とおとなしく修一郎さんは去ったのだった。
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