政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
マイバッハの後部座席に乗り込むとすぐに、隣に座る将吾さんがタブレットで仕事を始めた。
わたしは邪魔にならないように、流れていく車窓の景色を眺めることにした。
……もし、海洋と一緒に指輪を買いに行ってたとしたら?
もうあるはずのない「IF」が心に浮かんだ。
……たぶん、婚約指輪はピヴォワンヌで同じだろう。
だけど……結婚指輪の方は、彼はキャトル・ブラック、わたしはキャトル・ラディアントというふうに、それぞれ違ったデザインのものになったに違いない。
なぜなら、海洋は指輪なんかにまったく興味がないから、きっとわたしの意見がそのまま通るはずだ。
指輪だけでなく、彼は周囲のものに対しての関心がほとんどないのだ。
あの頃、海洋が関心を持っていたのは、いかに効率的に解ける数式の解法を見つけるかということと、幼い頃から続けてきた剣道ぐらいだった。
わたしが夢中になっていろんな話をしても、聞いているかどうかわからなかった。
……たぶん、聞いてなかっただろう。
だから、将吾さんのように、
『毎日つけるものだから、プラチナのシンプルなもので、同じデザインがいい』
『取引先の人は年配者が多いから、一目で「既婚者」だとわかるものが信用を得られて都合が良い』
『ファッションリングがほしければ、結婚してからでも買ってやるから、結婚指輪だけはオーソドックスなものにしろ』
などと、自分の意見を主張することもなかっただろう。