「別れてくれ」


「…は?」


仕事帰り。お気に入りのカフェ。ブレンドコーヒー堪能中。

そこにいきなり彼の口から出てきた一言。

それ、私に言ってます?

ちゃんと私に向き合って座っているのに、目は気まずそうに斜め下を向いている。

いやいやわかってるよ。

そうだよね。

目の前にいるのは確かに龍二で、龍二と付き合ってるのは私だもんね。

あまりに突然の言葉に止まりかけた頭の回転を、必死にフル稼働に戻そうとする。


「…なんで?」

「…他に好きな子ができたから」

ありふれた常套句。

冗談を言っているわけじゃないことはもちろんわかる。

龍二の申し訳なさそうな表情がそれを証明している。

そもそも龍二はそんな冗談を言える奴じゃない。

ただ、私にしてみれば晴天の霹靂。

寝耳に水。

いきなりこんな日が訪れるなんて、予想もしていない。


しばらく黙って頭の中を整理した。

さっきと同じく、何事もなかったかのようにコーヒーをすすりながら。

なんの返事もしない私に焦れたらしい龍二がちらっとこっちを見て、そしてまた目をそらした。

半分くらい飲み終わったコーヒーをそっとテーブルに置いて、そして。


「…せめて目を見て言いなよ!」

ビクッとした龍二がやっと私に目を向けた。

周りのお客さんの視線も感じたけど、そんなことはどうでもいい。

言ってやりたいことはいっぱいある。

「ちゃんと誠意っていうのを見せられないわけ!?
丸4年付き合って、最後に目も合わせないで別れようとか言うわけ!?」

「ちょっ…ちょっと落ち着けよ歩美」

「落ち着いてられるかっ!」

私をなだめようとする姿は、『待て、はやまるな』と犯人の自殺を止めようとする刑事のようだ。

だけどこっちにもこっちの言い分がある。

絶望して何も言わずに崖から身を投げるような真似をしてたまるか。


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