「一昨日家で会った時に言えばよかったじゃん!
しっかりやることやってさあ。
何考えてんのよ!!」

「いや、ちょっと待てって」

龍二がおろおろと周りを気にしだすけど、私は間違ったことは言っていない。

むしろ正論だ。

悔しいけど、他に好きな女ができたって、平気でデキる生き物なんだ。男ってやつは。

だからってその2日後に?

別れましょうって?

好きな子ができましたって?

ふざけてるにもほどがある。


「…本当は一昨日言おうと思ったんだけどさ、勇気が出なくて」

「だったらなおさらヤるなよ!!」

会社では営業成績がずば抜けていいなんて自慢していたけど、絶対嘘だ。

女の前でこんなにおどおどしてるくせに。

ぶん殴ってやりたい。

テーブルをひっくり返してやりたい。

…ただ、ここのコーヒーはおいしくてもったいないからぶっかけようとは思わない。

意外と冷静な自分もいる。

テーブルは重くて動かないだろうからともかくとして、龍二をぶん殴りたい気持ちはもちろんある。

だって、龍二が30になったら…2個下の私が28になったら、結婚しようって約束をしていたんだ。

あと半年後には、私も龍二も約束の年齢を迎える。

幸せがすぐそこで待ってるんだって、そう思ってた。

…なのにこの展開、あまりにもひどすぎる。

結婚詐欺もいいところだ。


怒りを吐き出すようにため息を吐いて、腕を組んだ。

言いたいことはいっぱいあると思ったはずなのに、案外出てこないもんだな。

悲しいことに、こればっかりは仕方ない、なんて納得し始めている自分がいる。

大声を出したら怒りが冷めてきたのかな。

…そしてそれと同時に、私も周りの目が気になり始めてきた。

ちらちらとこっちを見ながら、耳打ちをする人たち。

クスクス笑っている人たち。

今は龍二よりもむしろ彼らを怒鳴りつけてやりたい。


乗り出していた身体を椅子の背にもたれかからせて、もう一度ため息を吐いた。

「…いいよもう。
他に好きな子ができたならどうしようもない。
龍二の荷物は着払いで全部送るから。
私の荷物は発払いで送ってね」

「あ、ああ…」

残りのコーヒー半分をごくりと飲み干すと、舌に広がる苦みが妙に切なくなった。

さっきまではそんなこと思わずに、おいしさを堪能できていたはずなのに。

…ああ、なんだか泣きそうになってきた。

怒鳴るだけ怒鳴ってさめざめ泣き出したらそれこそ周りの笑いもの。

そして龍二にとっても私にとっても地獄の時間。

早くここから消えてしまいたい。


「…今までありがとうございましたっ」

頭を下げてカバンを手に取った。

「あ、俺もっ今まで…ありがとう」

背を向けた瞬間に龍二の声が聞こえて、チクンと胸が疼いた。


涙は今にも滲んできそうで、私は振り返ることも返事をすることもなく店を出た。