意地悪上司は私に夢中!?
「一昨日家で会った時に言えばよかったじゃん!
しっかりやることやってさあ。
何考えてんのよ!!」

「いや、ちょっと待てって」

龍二がおろおろと周りを気にしだすけど、私は間違ったことは言っていない。

悔しいけど、気持ちがなくたって平気でデキる生き物なんだ。男ってやつは。

だからってその2日後に、『好きな子ができたから別れましょう』?

ふざけてるにもほどがある。


「本当は一昨日言おうと思ったんだけどさ、勇気が出なくて」

「だったらなおさらヤるなよ!!」

龍二が30になったら…2歳年下の私が28になったら結婚しようと、前々から約束していた。

あと半年後には、私も龍二も約束の年齢を迎える。

幸せがすぐそこに待っていると信じて疑わなかった。

なのにこの展開、あまりにもひどすぎる。


深く息を吐いて腕を組んだ。

言いたいことはいっぱいあるはずなのに、うまく言葉が出てこない。

大声を出したらすっきりして冷静になってきたのかな。

…そして今更ながら、私も周りの目が気になり始める。

耳打ちをする人たち。

クスクス笑っている人たち。

痛いくらいに感じる視線に、いたたまれない気持ちになる。

乗り出していた身体を椅子の背にもたれかからせて、もう一度ため息を吐いた。

「…いいよもう。
他に好きな子ができたならどうしようもない。
龍二の荷物は着払いで全部送るから、私の荷物は発払いで送ってね」

「あ、ああ…」

ホッとしたような龍二の声に、胸がズキンと痛む。

残りのコーヒーを一気に飲み干し、カバンを手に取って立ち上がる。

「じゃあねっ」

舌に残るコーヒーの苦味が妙に切なくて、涙が滲みそうなのを堪えて店を出た。



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