君はガーディアン ―敬語男子と♪ドキドキ同居生活―
お姫様抱っこって!
「素子、素子の親族はお母さんだけなんだから、お母さんがいなくなっても大丈夫なように、自分の食い扶持くらいは、しっかり稼げるようになるんだよ」

 そう、母は何度も私に言って聞かせた。

 幼いながらに、仕事をして、ちゃんと収入を得て、一人でしっかり生きていかなくちゃいけない、この言葉は、呪いのように私の心の奥底に染みこんでいった。

「誰に頼らなくてもいいように、一人で何でもできるように」

 母子家庭で、母自身も親族との縁が薄く、母子二人で生きてきた。

 物心ついた頃から、家事をし、学校へ通い、あまり友達と遊ぶこともなく成長した。
 時間も余裕もなかったから、人付き合いも悪くて、長く付き合うような友達は少なかったけれど、いじめに遭って、親が呼び出されたり、解決に手間取るのも嫌で、学校では、息を殺し、ひっそりと過ごしていた。友達が少ないから、一番身近で、一緒にいる時間が長いのは母だった。

 母は、私にとって、親であり、女としての先輩であり、友達の替りでもあった。

「自分の面倒をちゃんと一人で見られるようになって、初めて、世のため人のためと言えるのだから」

 母の言葉は、私の軸であり、生きていく為の指針だった。

 大学を授業料免除で卒業して、本当は公務員がよかったんだろうけど、残念ながら公務員試験に落ちた。

 幸いにして、研究室の伝手で仕事は見つかり、やれやれ、これで、母に安心してもらえるかな、と、思ったのも束の間。

 母が、がんで、既に余命宣告も受けているという事を知らされた。

 私にまったくそれと気取られずに、母は私に病気を隠し通した。
 病気を隠されたのは、ショックだった。
 自分は、母に頼られていないのではないかと思った。私は、母に頼られるに足りないのだと。

 しかし、思った、とても『母らしい』と。

 誰にも頼らなくていいように、一人で何でもできるように、そう言っていた母らしい振る舞いだった。

 ……それでも、私は頼って欲しかったけれど。

 四月から、一人暮らしをする為、引っ越しをする事になっていたのだが、驚く事に、母と一緒に住んでいたアパートは、既に解約の手続きが済んでいた。

 後はもう引っ越しだけ、引っ越し荷物もまとまり、引っ越し業者が明日やってくるという、母と暮らした部屋で過ごす最後の日の午後。


 そんな時に、何故、私は、初対面の男性にお姫様抱っこをされながら、白い虎から逃げているんだろう……。
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