医局でパソコンを操作すれば、祐の仕事の予定はすぐに確認できる。
残業になりそうな日も、早く帰宅できそうな日も、予想することは容易い。


週末を迎える金曜日。
その日、祐は都内の別の大学病院で行われた医師会の研修に出席していて、医局で顔を合わせることはなかった。
研修は丸一日の予定で、その後は直帰となっている。


私は残業せずに仕事を終え、その足で彼の家を訪ねた。
閑静な住宅街の中でも、一際立派で重厚な門構えの、広い邸宅。
門の外のインターホンを押した時、腕時計はまだ午後七時を指したところだった。


玄関のドアを開けて私を招き入れてくれたのは、十年前から宝生家で働いている、通いの家政婦の島田さんだ。
婚約中、定期的に食事会に呼ばれ、何度か会ったことがある。
婚約を解消してからは一度も訪れていなかったけれど、島田さんは『お久しぶりです、雫さん』と挨拶をしてくれた。


私が祐を訪ねるのは二年ぶりだ。
もちろん、家政婦さんでも、私たちが婚約を破棄したことは知っているはず。
今頃なんの用だろう?と不思議に思っているのが、わかりやすい表情だ。


「祐に借りていた本を返しにきたんです」


そう言って、私は先週のデートの時彼に借りた本をバッグからそっと覗かせた。
島田さんは特に詮索することもなく、「どうぞ」と言って中に通してくれた。