イジワル外科医の熱愛ロマンス
「ゆ、ゆた……」


思わず漏らした声は、彼に舌ごと絡め取られ、演奏の邪魔にもならない。
甘い疼きをもたらす祐の唇から逃げようとしても、私の頭は背もたれをズルズルと下がっていくだけ。
それでも彼の唇は離れることなく、何度も角度を変えて私に攻め込んでくる。


祐が私の唇を吸い上げる度に、ちょっと淫靡な音が鼓膜に響く。
いつもワクワクして聞き入ってしまう第四楽章が、どこか甘く刺激的に弾んで聞こえる。
私の胸の鼓動は、限界を超えて高鳴っていた。


「ん、やめ……」


ほとんど隙間なく密着する祐の胸を、必死に手で押し返しながら、私は途切れ途切れの声で懇願した。
けれど、祐はやめてくれない。
信じられないくらい熱く強く唇を貪り、私の人生二度目のキスを奪い続ける。


耳に届く演奏は、『暗』から始まった『明』の絶頂でクライマックスを迎えるべく、息をもつかせぬ勢いで突き進む。
私はそれを……。
まるで、祐とキスする私を祝福する、華やかなファンファーレを聞いてるような気分で、ただ呆然としていた。
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