君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
Stage.1 クロード・ドビュッシー 月の光
今日は久しぶりにあの人のピアノが聞ける。


アルバイトをしているダイニングバーで、私は仕事中にも関わらず美しい旋律に聞き惚れていた。



「いつも遅い時間にシフト入ってもらってごめんね。

有坂さんが来てくれて、ほんとに助かってる」


と、オーナーは言うけれど、


「いえいえ!大丈夫です。
その分時給良くして貰ってるし。昼間はダンスの練習があるから、私も夜の方が都合が良いんです。」


申し訳なく思って貰う必要はないのだ。


深夜のシフトばかり入るもうひとつの理由は、時折訪れるあの人のピアノを聞きたいから。

彼はお客さんが疎らになる平日の遅い時間にふらっと来ては、ピアノを弾いていく。


今日の曲目は、クロード・ドビュッシーの「月の光」


淡くて柔らかなこの曲は、彼のイメージにぴったりだ。


スポットライトに照らされる彼の髪や肌は、少し色素が薄い。頬にかかる髪は柔らかく揺れて、引き締まった輪郭を際立たせている。


伏せられた睫毛はアーモンド形の優しい瞳を縁取り、すっきりと通った鼻筋が端正な印象だ。


演奏中、彼は軽く微笑んで穏やかな表情をしていた。


まるで、ピアノを弾く横顔まで高貴な芸術品のようで。



近づいてはならない、そんな気がする。


お客さんの喝采に、彼は今日も軽い会釈をして応えた。


彼はここで、一言も言葉を発したことがない。
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