しかし翌日、こっそりとお屋敷を出ていこうとする計画は即座に弥太郎さんに阻まれた。


部屋を出ていこうとすると、弥太郎さんに


「ねてろ」


とひと睨みされ、首根っこを押さえられるようにして部屋を出るのを阻止される。


「澪音と顔を会わせたくないんですよっ。ゴホッ……

きっと澪音は私に気を使うはずだから、できれば澪音に知られずに早く出ていきたくて」


「しるか」


必死の訴えをしても弥太郎さんは聞き入れてくれずにデスクに戻り、横にあるホワイトボードに走り書きした。


『そんな咳をしたまま出ていかせられるか。

今日は、俺はこの部屋で仕事をする。

一日中ここにいるから、俺の目を盗んで部屋から出られると思うな』


このホワイトボードは普段から筆談で使われているらしい。弥太郎さんならではの合理的な方法だ。


「でも……。ゴホッ、ゴホ、

弥太郎さんに風邪をうつしたら申し訳無いのですが」


『俺にうつさないように早く治せ』


なんて横暴な。


ベッドルームを指差して弥太郎さんは仕事に戻った。寝てろということらしい。


デスクの周りを見渡すと、難しそうな本が整然と並んでいる。その半分は洋書だった。

グランドピアノと多くの楽譜が置かれている澪音の部屋とは違い、仕事一色の部屋だ。


『暇ならこれでも聞いてろ』

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