極上社長と結婚恋愛

甘く柔らかなラムズイヤー

 

ビジネス街の一角にある雑居ビル。その一階で営業している小さな花屋『Gardenia(ガーデニア)』。

店舗部分は五坪ほどしかない小さなお店は、以前はカウンターのみの小さなカフェだったらしい。

アーチを描く古い木のドアに、アンティークな鋳鉄製のドアベル。通りに面した白漆喰の外壁には大きな窓。その窓ガラスは、狭い店内いっぱいに並ぶ色とりどりの花が美しく見えるようにと曇りひとつなく磨き上げられている。

私、福原あずさが幼い頃からの夢だった花屋をオープンさせたのは、二十五歳の時。それから二年半、毎日必死に働いてきた。

小さいとはいえ、花屋をひとりで経営していくのは決して楽じゃない。
仕入れた花の水揚げや店の掃除などの開店準備をして、夕方まで店に立つ。その間、配達の注文があれば『配達中』というプレートをドアに引っ掛けて急いで向う。

配達を受け付けている範囲は広くはないからそんなに時間をかけずに済むけれど、店に戻ってお客様が外で待っていてくれたりすると大慌てだ。

そうやって慌ただしく営業時間を終えると、今度は事務作業がある。
売り上げを計算して、花束用のリボンや包装紙の在庫をチェックして、次の花の仕入れを考える。

息つく暇もなく動き回っている割に、儲かっているとは言い難い。
だけど、開店したばかりの、なかなかお客さんが増えずに赤字続きだったころに比べれば、三年目に入った今はこのお店も周囲の人たちに認知され売り上げも安定してきた。

小さくていい。儲からなくてもいい。
誰かを幸せな気持ちにできるような、素敵な花を贈るお店を開きたい。
そう思いながら作り上げたこのお店が、私の仕事で生きがいで、そして宝物だった。


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