「麻耶、食欲ないの?」


隣に座るミオリが、小首を傾げて私の顔を覗き込む。
箸の進まないお膳を前に出て来たのは、返事の代わりにため息がひとつだった。
無意識に私が流した視線を追って、ミオリが「あ、そういうことか」と納得顔を浮かべる。


「せっかく一緒に来てるのに、桐島さんと全然話せてないもんね」


そうなのだ。
一泊二日で行なわれる部署ごとの社員旅行で桐島さんのいる流通戦略部と私のいる総務部が合同で来たのは、バスで二時間もあれば来られる比較的有名な温泉宿だった。
観光地巡りをしている間もバスの中でも、桐島さんの回りは流通戦略部の取り巻きに固められ、夜の宴会が始まったこの場所でも、桐島さんの席は私から遠く離れているのだ。

しかも、お酒を注ぎに次から次へと女子社員が群がる始末。
桐島さんと私が付き合っていることは周知の事実で、社内では公認の仲なのに、みんなは全然おかまいなしに桐島さんに言い寄る。

桐島さんも桐島さんだ。
人事部長をしていたときは女性のいっさいを寄せつけなかったくせに、どうして今になって穏やかに受け入れるの?

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