御曹司のとろ甘な独占愛
 山越一花(やまごえ いちか)は、ぱっちりとした黒目がちな瞳と純朴そうな桜色の唇が印象的な販売員だ。
 台湾大手宝石商『貴賓翡翠』が経営する『日本貴賓翡翠』に入社してから、もうすぐ三年目になる。

 入社当初は宝石についての知識も素人だったが、幼い頃からの翡翠への憧れからか、入社後はめきめきと成長した。そんな彼女の一生懸命な姿勢が、多くの顧客の信頼を得ている理由だろう。

「店長さんから、“今季の代表作の指輪が到着した”ってお電話をいただいたのだけれど……見せて頂いても良いかしら?」
「かしこまりました。少々お待ち下さいね!」

 一花は自然な動作で、宝石取り扱い専用の手袋をジャケットのポケットから取り出して、装着する。

(翡翠とお客様、どちらにとっても幸せなご縁が結ばれますように)

 バックヤードへ急ぎ、代表作のおさまるリングケースを手に取ると、流れるような洗練された歩みで、お客様の前へ戻った。


「常盤様、お待たせいたしました」

 店内で一番大切に保管されていた氷翡翠の指輪を取り出し、スエード調のリングトレイにそっとはめこむ。

 綿密に角度を設計されている照明により、漆黒のリングトレイの上に光が集まり、――まるで天使が降りてきたかのように、美しく透き通った氷翡翠が幻想的に輝いた。
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