お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
絶対に



本当に全部偶然からだった。



その日は前からやり合っていた不良グループと街でばったり会って、小競り合いになった。


ぶっ倒してやったけど、さすがに三対一ではこちらも無傷とはいかない。



「いってぇ」



殴られて切った口の端を公園の水道で軽く洗う。


沁みる痛みに顔を歪めて、水道の蛇口を閉じた。



どうして、こうなったのか。


昔から酒蔵の息子だからと虐められ、成長するにつれ家のでかさに嫉妬され、寄ってくるのはその金欲しさの腐った奴ら。



全部がバカバカしくなって夜も家に帰らず遊ぶようになって、その流れで不良とぶつかることも増えてきた。



家族は何も言わない。


仕事に忙しい親父に、年の離れた兄は温厚で父の仕事を手伝っている。



ばあさんは親父に全部会社を任せてから、趣味の短歌やら茶会やらを嗜んでいる。



素行の悪い俺を誰も責めないから、ついこの前苛立ちが爆発して家の窓ガラスを全部バッドで割りまくったら、さすがにばあさんに往復ビンタされた。


もっともその時の台詞は「これから寒くなるのに何してんの!」というちょっと外れたものだったけど。



ばあさんはいわば、俺の育ての母親だ。


本当の母親は俺を産んだあと、体調を崩しがちになって五つの時に死んだ。


いつも記憶に残っているのは消毒液の匂いと白い病室で真っ白な肌をした母親がベッドで寝ているところだ。



俺を産まなければもっと長生きできたんじゃないのか。



心の奥にある疑問を家族になげかけたことはない。


返ってくる言葉が怖くて訊く勇気がなかった。


本当は家族も俺を責めたいのに、我慢してるのではないのか。



物心ついた頃からの疑念は俺の中で膨らんでいって、忙しい親父を煩わせたくなくて、必要だと言って欲しくて、優等生の息子を必死で演じて。




でも、高三の夏。親父に進路のことで相談すると「自由にすればいい」とだけ返ってきた。



その時に糸が切れてしまった。




次男の俺には何も期待していない。それがショックだった。



本当はもっと構ってほしかったんだ。





母親が死んだこともお前の責任ではないと言ってもらいたかった。



だけど、煩わしがられるのが嫌でずっと甘えるのを我慢していた。




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