お見合い相手は無礼で性悪?





『ただいま』


開いた玄関の中には
いつも出迎えてくれるはずの母までも姿が見えない

シンと静かな家に寂しさが募る


・・・出掛けてないよね?車あったし


お手伝いさんも帰った後のいつもより静かな家を気にしながらそのまま部屋へと向かった


・・・お二人さんはお似合いだねぇ


・・・そうだろ?


思い出すのは屋台でのやり取り


そして・・・何故か
あいつの顔が浮かんだ


だめ、だめ
お見合いの段取りが進む前に
ちゃんと父と話さなければ・・・

そう思い直したところで

部屋の扉がノックされた


『愛華、いいかな?』


『うん』


いつもより低い父の声に身構える


 
『お風呂を済ませたら行くから後でも良い?』



帰って早々に婿養子の話は嫌だと逃げ道を探したつもりが


『いや、今聞いて欲しいんだ』


いつになく真面目な顔付きの父に
これ以上の逃げ口上も無くて

テーブルを挟んで向かい合った


まずは、事を急いてしまったと詫びた父は
淡々とこの縁組みの話を並べた


おじいちゃまから譲り受けた会社を
父の代で潰す訳にはいかないこと

そして、実はこの縁談が子供の頃から決まっていたことを

自分のことなのに、どこか他人事のように聞いた

その上で

『私に断る権利はあるの?』


そう返した私に父は渋い顔で目を閉じたけれど


『もしも、愛華に好きな人がいるのなら・・』


思い直したように顔を上げた


『好きな人は居ないわ。お付き合いしている人もいない。でもね』


どうにも納得できない失礼な言動の数々を並べると


なんだ、そんなことかと表情を緩ませ


『今すぐにとは言わない
一翔君はシャイなだけでこれから慣れるよ』


問題ない、を繰り返し部屋を出て行った


・・・シャイ?問題ない?そんな訳ないわ

上手く誤魔化され
結局は受け入れなければならないのかと
気分は最悪にして最低に落ちた


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