「悠さん、ありましたよ!」

私の指さす先にあるのは、ショッピングビルの中の旅行代理店。

『結婚』と言えば結婚式と新婚旅行だということを、私は『契約結婚』という名にとらわれてすっかり忘れていたのだ。

実際、結婚指輪だって先生にもらうまで忘れていた。

先生自身は、『しょせん契約結婚なのに凜はそんなことまでしたくないんじゃないか』と遠慮していたそうだ。

先生は長い休みは取れない。

だから、ハードスケジュールにはなるけど、近場のグアムで挙式がてら新婚旅行を兼ねてもいいんじゃないかという話になったのだ。

まだ予定は漠然としているから、パンフレットだけケースから抜き取って持ってきた。

パンフレットは、純白のウェディングドレスを身に纏い、かわいいブーケを持っている女性の表紙。

それを見るだけで幸せな気持ちになる。

「…悠さんのタキシード姿、素敵だろうなあ…」

「凜のウェディングドレス姿見たら、俺泣くかもしれない」

「えっお父さんじゃあるまいしっ」

口元は微笑んでいるけど、先生は茶化して言っているようには見えない。

「悠さん、私、IRIAのウェディングドレスが着てみたいんです。
前から夢だったんです」

「ドレスの試着もしに行かなきゃいけないな。
そういうのも女性にとっては夢なんだろ?」

「…でも悠さんと行ったら楽しみが半減しちゃいますね。
悠さんには当日見せたいから…」

美咲と見に行こうかな、なんてのんびり考えていたら、先生の目線は私でも進む方向でもなく、斜め右を向いていた。