まだ夢なんじゃないかと少し疑っていたけど、どうやら現実だったらしい。
…いや、もしかしたらそうとう長い夢なのかもしれない。
その日のうちにお見合いは断りの電話を入れた。
もちろん母は『そんなの相手方に失礼よ!』ととても怒ったけど、まあ当然のことだろう。
お見合いはもう数日後に控えていたんだから。
だけど、結婚しようと思っている相手が他にいて、それが医師であることを告げたらコロッと態度が変わった。
早速その週末に、先生は長野にある私の実家に挨拶に来てくれた。
過疎化の進んだ田舎町で、だだっ広い土地に広い庭があり、その奥にこれまた広い家が佇んでいる。
母がひとりで住むには広すぎて、寂しい思いをしているんじゃないかと思いきや、本人はそれを満喫しているらしく、よく友人を招いてパーティーをしているらしい。
通された和室の庭に見えるししおどしが、一定の間をおいてカコンっと音を立てる。
それが私と先生の緊張感を煽っていく。
緊張した面持ちで母に向かい合い、先生は正座をして頭を下げた。
「凛さんを、僕にください」
「ええ、お願いしますねっ先生」
拍子抜けもいいところだ。
結婚する上でよくある『彼女の親への挨拶』、母は全く緊張感がなく、即答した上に声を弾ませていた。
それは、医師だからという理由だけじゃなく、実際に会ってみて先生の容姿にメロメロになってしまったからだ。
「あと30歳若かったら…」
お父さんの仏壇の前で本気で言うお母さん。お父さんが不憫でならない。
その後は私をほったらかして3時間も2人で会話を楽しんでいた。
いや、正確には3時間のうちのほとんどが母のマシンガントークだ。