暑さもおさまり、病院からマンションまで歩いて帰るにはちょうどいい涼しさだ。

朝は先生が車に乗せて行ってくれるけど、帰りは時間が合わないから徒歩。

歩いてもどうせ20分くらいの距離なのだ。
多少運動しないとなまってしまう。

マンションのエントランスの前まで来て、キョロキョロと辺りを見回す女性を見かけた。

バス停でも探しているんだろうか。

でも、私もまだこの辺に土地勘はあまりないから道案内はできない。

特に気にも留めずに中に入ろうとしたら、

「ちょっと」

声をかけられて、驚いて振り返った。

私よりも随分背の低いその女性は、いつの間にか私のすぐ後ろに立っていて、私を上目で睨みつけている。

30代前半、といったところだろうか。

よく見れば髪の毛はボサボサ、洋服も首元が広がってたるんでしまっている。

ずいぶん色落ちした緩いチェックのパンツ、健康サンダル。

ちょっと不審に思ってしまうような姿だ。

「風間先生のところに連れて行って」

「えっ」

あまりにも想定外の質問に、私の頭は軽くパニックに陥った。

誰、この人…?

「風間先生は私のものなの!部屋へ連れて行って」

その小さな体のどこからこんな力が出てくるのかと思うくらいに勢いよく私の肩を揺らす。

「…私は風間先生って言う人を知らないんですけど」

彼女はくそっと呟いてぎりっと右の親指の爪を噛み始めた。

完全に不審者…もっと言えばストーカーだ、と思った。

オートロックに一緒に入って来られたらマズイ、と思って一旦病院まで戻った。