「あら相沢さん?帰ったんじゃなかったの?」

「いやー、忘れ物しちゃいまして」

不思議そうな顔をする小沼さんに頭をかきながら愛想笑いをして、ロッカールームへ向かった。

先生がプライベートのスマホをすぐに見られるとは限らないから、私用で申し訳ないけど、院内用のPHSで…


プルルル プルルル プルルル

『はい、風間です』

「お疲れ様です。相沢です。
ストーカーらしき人がいて、マンションの前で先生を待ち構えています」

忙しかったら申し訳ないと思って簡潔に言ったつもりだったけど、先生は少し黙り込んだ。

『…背の低い女か?』

「知ってるんですか?」

電話越しに大きな風のような音が聞こえた。
ため息を吐いたんだろう。

『あいつのせいで引っ越したのに…また住所がバレたのか』

あの人のせいで引っ越し…?

「知らずに先生が部屋に戻ろうとしたら、危ないかもしれないと思って…」

『…サンキュ。助かる。
もうすぐ帰れるから、ちょっと待っててくれないか。
危ないし、乗せて帰る』

そう言って電話は切れた。

苛立つというよりも、あきれ返っているような声だった。


「あれ?相沢さん帰ったんじゃなかったの?」

会議から戻って来たらしい課長が小沼さんと同じような質問をして、私はもう一度全く同じリアクションを返した。