悲劇のヒロインなんかじゃない。
悲劇のヒロインなんかじゃない。
「え?今なんて?」


会社の社長でもある父に呼ばれた社長室で、ソファーに座っていた私は立ち上がった。


「だからだな、その、青嶋くんから連絡があって…」


言いづらそうに私から視線をそらす父。


『青嶋くん』とは私の婚約者だ。


「それで、青嶋さんは何ておっしゃってたの?」


「『婚約を白紙にしてほしい』と言ってきたよ」


婚約を白紙に……


「薫?一体何があったんだ?よく食事にも行ったり会っていたんだろう?上手くいってたんじゃなかったのか?」


ため息をつきながら父は椅子に深くもたれた。


「私は…、私達は…」


何も言えない。だって何も聞かされていない。


「婚約を白紙、ということは、事業協力の話も白紙になるということだ。青嶋くんはそれをわかっているのか。…バカな男だな…」
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