たとえこの身が滅びようとも
scene 1


仕事の帰り道
果物屋さんに寄り道をした。

家に帰ったらノブ君に大切な話をしなければいけないので、ノブ君の好きなリンゴを買って場を和ませようと企んでいた。

話をしなくていいのなら
知らん顔で通したい。

でも
私が話さずとも
必ずバレる話なので覚悟を決める。

高いけど真っ赤なリンゴが欲しかったけど
真っ赤なリンゴは丘の上の人達が来て買占めたらしく、私はしなびた青いリンゴをふたつ買う。

皮を剥いたら同じなのに【赤が欲しかった】と、マイナス思考になるのは反社会的思想に繋がる。普通の人間らしく流れるままに生活するのが安全で安心なのだから考えてはいけない。考えて行動していいのは丘の上の人達だけで、私達は羊のように群れて大人しく生活しなければいけない。黒い羊は排除される。

果物屋さんのおじさんからリンゴを受け取り、コートの襟を立ててアスファルトの坂を上がる。

割れたアスファルトからはみ出している草が、朝より成長している気がした。

彼らも成長する
そして
お腹の卵も成長する。

そっと私はまだ光らぬ首筋を触り、足早に家路に向かった。




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