今の私は一週間前のあなた
エピローグ~乃々~




ドゥンッ




鈍い音が響いて全身が宙に浮いた

私は、死ぬのか…


修也が死んで
藍として生きて。


乃々が死んで
乃々として生きて。


次は
私は何になるんだろう



顔の上にポタリポタリと落ちてくる涙に
まるで自分が自分の死を悲しむように泣いているようにしか見えない

鏡を見ているような心地に陥る



…やっと。

たすけることができた



たすけられてばっかりだったけれど…



いつの間にか

助けたいと
輔けたいと
扶けたいと…

思っていた。



私が“藍”だったときに
“乃々”が私をたすけてくれたように。

修也との過去の約束を思い出せる場所に連れて行って
最後には弱かった私に笑って
「さようなら」
できるように。



…やっと、叶えることができたんだ。



ねぇ、だから…“私”?


「…わら、て…。わらっ…て」


私は今、すごく幸せなの。

だって。
誰かをたすけることができた

誰かを変えることができた




だから…笑って?




「ありがとう…っ!」



涙でぐちゃぐちゃな顔のくせして
笑ってお礼なんて…


なんて馬鹿なんだろう


少し前の自分だとわかっていても
にやけずにはいられなかった


「えへへ」


だんだんと暗い闇が私を引きずり込んで行く
これから行くのは地獄?


それでも、最後に
彼の名を呼びたい


死ぬ前に、私の愛する人の名を…




「…修也…」









乃々になった私は

たった一度を除いては修也の名を呼ぶことは避けていた。
きっと、無理やり固めた決心がボロボロに砕かれると思ったのだ

泣いてしまうと思ったのだ


案の定、藍が夢を見て「現実は嫌だ」と叫んだときに
私は彼の名を呼び、泣いてしまった


きっと、藍は気づいていないと思うけど
泣いてしまった


…私は弱い
どんなに頑張ったって強くなることはできなかった。


それでも、私は誰かをたすけたいと思った


それは偶然かはたまた運命か
神様の気まぐれかはわからないけど。


私は、藍をたすけることで
“最後まで生き抜くこと”ができた


乃々の存在だけでは満たされなかった部分が
藍によって満たさせれたのだ




〜〜




誰もいない部屋でテレビがひとりでにチカチカと光る


「午後のニュースをお伝えします。

〇〇県〇〇町で事故がありました。

被害者はAさん17歳で、彼女は別の少女を助けようとして亡くなったとみられています。

現場の、春田さーん?」




『はーい。春田です。

こちらが現場となっております』

春田はカメラに向かって話す
リポーターという役割を果たすために。だ



『証言された方によりますとですね。別の少女が引かれそうになっていたのを庇って車に引かれたとされていまして…。


あっ…』



その途中、何かを見つけたように春田は呟いた



『お供えをしていますね。声をかけてみましょうか』




春田は事故現場付近に花とお菓子を置く少女と少年に声をかけた

『お友達ですか?』



声をかけると少女は涙ながらに叫んだ


『親友…でした…っ」


『どんな方でしたか?』


『まっすぐで、正直者で
人一倍他人を思いやって。

確かに彼氏を愛しすぎちゃうところもあったけど
そんなところを含めて大好きでした…

大切な人を本当に大切にする

…私の、大好きな、…友達でした……』


『いい奴、でしたよ』


少女の涙でぐちゃぐちゃな言葉と
少年のそっけない言葉には

少女へのたくさんの愛情を感じることができる


たった17の少女が。

ここまで愛された理由はなんだろうか




彼女はそれほどまでに
優しく
強かったのであろうか



『…そんな少女が亡くなられるなんて…悔しいですね』


リポーターとして最低限のことを言って
春田は画面を変えてもらった


これ以上テレビ画面で笑っていられる自信がなかったのだ



「……っ…う」


何故か、涙が溢れた。
17の少女の命が消えてしまったことが哀しくて哀しくて仕方なかった。


春田はその場でそっと手を合わせ





一輪の花を添えた


カランコエの花を






…どうか、

優しき少女に

幸福を……………







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