「こら真穂、偉そうな口きくなよ!千花が俺のそばに居てくれるだけで良いんだよ。さ、ほら点滴交換して注射するぞ!」

そんな伊吹の声に甘えたように言い返す声。

「えぇ!!嫌だよ」

「嫌じゃねぇよ。ほら、やるぞ」

「はーい」

カチャカチャと音がして、その後のやり取りも聞こえてくる。

「ほら、刺すぞ。あれー?どうしたの、涙目になっちゃって?」

くすくす笑う伊吹の声。
それは昔、私をからかっていた時と同じ。

「うー、大丈夫だもん!」

そう強がりを返す可愛い声。

よほど仲良しなのだろう。

でも女の子の声には色を感じるんだから、そりゃ周りのナース達も心配になる訳だ。
女の勘は当たる……。

この子は伊吹が好きなんだと、私も感じた。

「ね、これ大丈夫なの?」

奈津子も心配そうにしているけれど、私は笑顔を見せて答える。

「うん、大丈夫よ。伊吹の奥さんは私だもの」

そう言って踵を返して仕事に没頭したあと、帰宅するもその日も勤務と従姉妹の彼女の心配からか、伊吹は家に帰って来なかった……。

患者が心配なのは分かる。

受け持ち患者の状態によっては、帰れないことがザラにあることも理解している。

でもあの病室の外で聞いた二人の会話の雰囲気に、とても不安になる。

私にはあんなざっくばらんな腹黒い絡みは無くなってただただ、甘いだけ……。

そんな伊吹との、新たな関係に満足していたはずなのに……

私たちの間が距離が変わったと喜んでいたのに……。

今の私は荒波に取り残された船みたいに、ゆらゆらと不安に揺れていた。


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