強引ドクターの蜜恋処方箋
3章
「最近どうなの?よかったら今日何も予定ないなら顔見せに帰ってきなさい」

母から久しぶりに電話があった。

母の体調も落ち着いているようで、最近昔からの仲間と北海道に旅行に行ったとか話していた。

週末は特に予定もない。

たまには親孝行しに帰ろうかな。

「うん、じゃ、今日帰る」

「夕飯、何が食べたい?」

「そうだなぁ。すき焼き」

「あんたもすき焼き好きねぇ。子供の頃からちっとも変わってない。いいお肉用意して待ってるわ」

「ありがと。じゃ、夕方そっちに行くね」

母の声はとても弾んでいた。

やっぱりちょくちょく顔を出してあげないとなって思う。

一泊分の準備をし、小さめの旅行バッグに詰めた。

読みかけの単行本と、スマホの充電器。

テーブルには、この間買った『看護師になるために』の本がそのままに置いてあった。

なんとなく、その本もバッグに入れる。

昨晩はなかなか寝れなくて、目が覚めるとお昼過ぎだった。

ゆっくりめに出発するはめになり、実家についたのは日が暮れる少し前。

「おかえり!」

母は相変わらず明るいテンションで迎えてくれる。

私の路頭に迷いそうな気持ちに気付きもせず。

でも、逆にそれに救われたりもするんだけど。

「それにしても久しぶりねぇ。元気してたの?」

母は、私のバッグを受け取り、リビングに運んだ。

「なんとかね」

私はどかっとソファーに腰を下ろした。

家では、いくつになっても甘えてしまう。

幼い頃のままだ。

忙しく動き回る母の顔色はとても血色がよく、元気そうだった。

「お母さんはどうなの?体調は?」

「ありがと。大丈夫よ。最近はほんと元気元気」

母は嬉しそうに笑うと、私のお茶を入れにキッチンへ入った。

母の「元気元気」ほど当てにならないものはない。

以前倒れた時だって、「大丈夫よ!」なんて入院先のベッドで笑ってたもの。

だけど、今回は本当に体調もよさそう。

何かいいことでもあったのかな?

熱い紅茶を入れて、私の前にそっと置いてくれた。

「何か食べる?こないだ田中のおばちゃんから頂いたおいしいクッキーあるけど」

「ほしいほしい」

母は戸棚からちょっと高級そうなクッキーの缶を持ってきた。

「うわ、おいしそう。色んな種類入ってるね」

「そうでしょ。おいしいんだってば。いっぱい食べなさい」

実家に来ると太っちゃうんだよねー。

ま、一泊だしいっか。



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