美意識革命
美意識革命
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 10月になり、少しずつ季節が冬に近付いていく感じがする。風が冷たくなった。

「森さん、明日は何が食べたいですか?」
「手料理だったら何でも!」
「…それじゃ答えになっていません。」

 森の家に呼ばれたので、森の家で過ごす休日だ。ちなみに明日は森の誕生日でもある。

「だって由梨さんが作ってくれるご飯、何でも美味しいから。」
「そうやってまた私を甘やかす!」
「甘やかしたいんだもん。」

 森と過ごす時間を増やせば増やすほど、森の優しさが心全てを包んでくれる。その心地よさから抜け出せそうにないのに、いまだに下の名前も呼べなければ敬語を崩せもしない。告白の返事も正式には返せないままだ。もう気持ちは充分すぎるほど傾いているのに。

「じゃあせめて食事のジャンルだけ決めてもらってもいいですか?」
「和食がいいな!」
「和食…。わかりました。」
「久しぶりだよ、自分の誕生日に有給取ったの。」
「そうなんですか?」
「だって今年は祝ってくれる人がいるからね。」

 今日は元々の休みで、明日は由梨も有休を取った。こんなに色々と準備する誕生日というのも、由梨にとって初めてかもしれない。(ただし、明日の食事はずっと森が何も言わなかったため、食材を揃えるところから明日全てやらねばならない)だが、そろそろ本当にちゃんと伝えるべきことを伝え、進むべきだとも思っている。

「由梨さん。」
「はい?」
「あのさ…。」
「…?」

 森が言いよどむのは珍しい。由梨は手を止め、森の隣に座った。

「どうしました?」
「…今日、泊まっていかない?」
「え…?」

 想像もしていなかった方向からの言葉に、由梨の頭も身体もフリーズする。
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