別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
駅の近くに路駐をして、警備員が見張っていないことを確認しながらハザードを光らせ、路肩に車を寄せる。

「じゃあ、またな」

いつも通りに微笑む秋。

私はもう『またね』とは言えない。

心を落ち着かせるために、長く細い息を吐いた。

「…ねえ秋」

「ん?」

「昨夜は最後にするつもりで秋の部屋に行ったんだ。
だから、ごめんね。もう別れよう」

「え?」

俯いている私には、秋がどんな顔をしているのかはわからない。

だけど、声が戸惑っているのは確かだ。

胸がズキンズキンと鼓動に合わせて軋む。

顔を上げ、精いっぱい笑顔を作った私の目には、もう涙が浮かんでいた。

「さよなら」

「…加奈っ?」

秋の声を背にドアを閉めて、駅まで駆けた。

路駐をしておくわけにいかない秋は降りて来られない。

息を切らしながら改札を抜けて、滑り込んできた電車に飛び乗った。

最後に見た秋の顔が笑顔じゃなかったこと。それだけが心残りだった。


新しいアパートの最寄り駅に着くと、駅の隅には友香と葉山の姿があった。

「友香…来てくれたの?」

友香は泣きそうな顔をしながらにこりと微笑み、私を抱きしめてぽんぽんと背中を叩いた。

「頑張ったんだね」

友香の温もりに涙が溢れ出す。

もう限界だった。

人通りの多い駅の隅で、私は友香の腕の中で子供みたいに声をあげて泣いた。


< 138 / 179 >

この作品をシェア

pagetop