【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
§雅さんの正体

連絡先の交換をすると、雅さんは濡れた髪もそのままに私に背を向けて支度を始めた。ガウンを剥いだ背中は広く、筋肉質だ。流れるような所作でシャツの袖を通し、ネクタイを締め、ベストを着用する。腕時計は確かスイス製の……ブランド名は知ってる。スーツもおそらく海外ブランドのオーダーメイドものだろう。デザインが凝っているし、形は彼の体にしっくりとなじんでいるから。

なんとなく、目が離せない。キミ痴女?、なんて言われてしまったけれど。欲しかったらいつでもあげるとウインクして、ジャケットを片手に部屋を颯爽と出て行く。彼を見送って、私は浴室に入った。

雅さんの浴びたあとの温かさがほんのりと残っていた。広い浴室は大きな猫足バスタブのほかにシャワーブースもあった。

おびただしい数のうっ血。鏡に映る背中にも。
その数だけ雅さんに口づけられた証拠だ。キス魔? 橘さんはあまりそういうことはしなかった。

すべてにおいて優しかった。なにげない会話をするときも食事をするときも、肌を重ねるときも。

新しい女の子にも優しくしたんだろうか。

私は頭を振った。考えてもしかたのないこと。シャワーを全開にして石鹸を洗い流す。

何か別のことに思考を向けないと。

そういえばこのホテル、仕事で手掛けた案件と同系列のホテルだ。ブライアントホテルという国内では海外の重鎮も受けいれているトップクラスのホテルだ。

私が請け負ったのは地方の駅前の再開発で、このホテルのセカンドラインを誘致した。お手頃な宿泊料でビジネスにも利用でき、平日も稼働率が良いのが売りだった。それに比べてこの本家スイートルームは広い上に装飾もゴージャスだ。アメニティも充実している。

宿泊料はいくらだろう。1ヶ月分のお給料が羽を生えさせて飛んでいくかも。
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