朝、目が覚めたらそばにいて
出逢い


「『如月千秋の私の目が覚めたらそばにいて』って小説を探してるんですけど」

これでもう何軒目の書店だろう。
親友で会社の同僚の川原沙也加(かわはらさやか)の部屋にあった如月千秋(きさらぎちあき)という小説家の作品を借りて読んでから彼女の作品にハマってしまった。

世の中に出ている彼女の小説は8冊。
多い方ではない。
買い集めたどの物語りも環奈の理想の男性が登場するのだ。


ドSな年上。
犬っころのように甘えてくる年下。
意地悪な同期。


さやかは「そんな男いるわけないじゃん。小説の中だけだって」とすぐ私の夢を壊す。
それでも小説の中の男性はヒーローで理想なのだ。

ヒーローだけでファンになったわけじゃない。
千秋先生の作品に登場するヒロインもまた環奈の憧れとする女性像そのものだった。

理想のヒーローと憧れのヒロインが繰り広げる恋模様。
環奈は千秋先生の作品を読むことによって自分が恋愛しているようにドキドキしたり、切なくなったりすることで恋愛をした気分になるのだ。


最後の一冊。
それは如月千秋先生が書いた4冊目の作品だった。
他はなんとか手に入れられたのに。
ネットで探しても絶版している。
手に入らないと思うと余計に手に入れたくなる。


週末ごとに書店巡りをしている私をさやかは呆れているけれど、絶対に『私の目が覚めたらそばにいて』の彼に出会うんだから。
あ、間違えた。
その小説の中のヒーローに出会うんだから!

と探すこと1ヶ月。
都内の大型書店はどこも取り寄せすらできないと断られていた。
ダメ元で自宅近くの書店を巡る。
ここ数年で小さな書店は姿を消している。
それでも学校の教材を扱っている昔からの書店が環奈の住む街に一軒だけあった。


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