35階から落ちてきた恋
「あら、2人の中で意見が分かれてるの?」
山崎さんは面白そうに私たちの顔を見比べている。

進藤さんは私の肩に手をかけてぐっと自分の方に引き寄せると囁いた。
「俺と一緒に1つのベッドで抱き合って寝てたことは社長にどう説明するんだ?目撃者だっているんだぞ。果菜はいつもただの患者と一緒に寝るのか?ん?」

「だって、それは」
私が寝てるうちにあなたが勝手にやったんでしょ。

私が上目遣いで進藤さんを睨むと、進藤さんは目を細めてクスッと笑った。

あ、その表情。
目尻にしわが寄って左目のほくろが軽く持ち上がる。

セクターだな。
胸がドキンとする。

慌てて目をそらす私の挙動不審な態度に進藤さんは吹き出した。

「貴斗、からかうのもいい加減にしなさい。水沢さんにはまだお世話になるのよ!」

社長の一喝に進藤さんははいはいと肩をすくめた。

「果菜、俺の具合が悪いときには声をかけるから、お前はライブ前は休んでおけ。昨日はあんまり寝てないんだから。ここにいなくていいから俺の楽屋に行ってろ」

顎で楽屋の方向を指すと、また打ち合わせに戻っていった。

いや、2時間くらいではあるけど、昨夜あなたのベッドであなたに抱きしめられたことに気が付かないほどぐっすり寝てましたよ。

「まー、タカトにしちゃあ優しい対応ね」
山崎社長は珍しいものを見たとでも言いたげ目を大きくした。

私は目をぱちくりとさせてしまう。
アレが?
俺さま的優しさ?

「タカトもああ言ってるし、今から今夜のライブ終了まではまだまだ先は長いんだから果菜ちゃんは休んでいたら?何かあったら呼びに行くわよ。
あ、ほら、果菜ちゃんが動かないからタカトがこっちを睨んでる」

え?
ステージを見ると、確かに進藤さんが目つき鋭くこちらを見ていて、目が合うと顎で指して口パクをする。

ん、『は、や、く、い、け』
早く行け

ここにいると邪魔だとでもいうような表情に、はいはいと私は立ち上がった。

「お言葉に甘えて休んできます」そう言うと山崎社長は笑った。
「そうしてちょうだい。じゃないとタカトがあなたのことが心配で集中できそうにないみたいだから」
「いえ、それはちょっと違うような」

もう一度ステージを見ると、早くいけとばかりに手でしっしっと追い払うような仕草をしている。
ああ、ホントに私がいると邪魔みたい。
「楽屋に引っ込みます」と肩をすくめて退散した。
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