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がつん!
と勢いよくグラスが置かれてビールが零れ、さやかの手を濡らした。


仕事上りにふたりで居酒屋に訪れたのだが、個室が空いていてよかったと思う。多少ヒートアップしても誰かに聞かれることはない。


「信じられない新田さん……しかも普通、同じ職場の女選ぶ?」


さやかがそう言って強くグラスを握りしめている。ぶるぶると震えていて、私の為にこんなに怒ってくれているのだと思うと、少しばかり慰められた。


昼休み、大まかなことの流れを話した後、さやかはあまりの事態に言葉を失った。当然だと思う、私だってこんな話を友人から聞かされたら慰めの言葉も思い浮かばない。


だけど、どうにも気力の湧かない私のお尻を叩いて実家への連絡を促してくれたのは彼女だ。


結婚を喜んでくれていた両親や姉を悲しませるとわかりきっている。
躊躇っていた私だったが、ひとりで抱えることはない、結婚は家族も関わることなのだからと、さやかの言葉に励まされ昼休みの間に実家に電話を入れた。


ありのままを報告するしかなく、母親もまた暫く電話の向こうで言葉を失っていたが。


『……良かったわ。私ほんとは、新田さんちょっと苦手だと思ってたのよね』


そんなはずはない。なのに、あっけらかんとそう言ってくれた母親の優しさに泣きそうになった。それだけでなく、父親と親戚への説明も代わりにしておくから自分のことをしっかりとやりなさいと励まされたのだ。