桜の開花が間近に迫った三月最後の日。オフィスの窓から見える空はオレンジ色に染まり始めていた。


「大変お世話になりました。本当にありがとうございました」

「片瀬さんにはずっとここにいてもらいたかったです。本当に残念だけど、お疲れ様でした。こちらこそありがとうございました。次のところでも頑張ってくださいね」


がっしりとした体格の部長から花束を受け取って、私が深く頭を下げると、パチパチ……とそのフロアにいる人たちが拍手をしてくれた。

私、片瀬紗世(かたせさよ)は派遣社員として三年間勤めた会社を出た。

今年に入ってから正社員として働かないかと直接雇用を打診されたが、丁重にお断りをした。正社員の方が給料も待遇もいいのは分かっているけれど、目立つことをしたくなかった。

派遣なら目立たない、大人しくしていられると思ったから……。



夜はまだ風が冷たい。襟元に入り込んでくる冷たい空気に身を縮ませて住むマンションのエントランスに入る。

郵便物を確認しようとポストに行くと、1人のスーツを着た男性がいた。初めて見る人だったから、横目でチラッとその人を見てからポストを開ける。