広海くんは母親が自分を拒絶したときの顔を何度も夢にまで見て、何度も苦しんだという。


「両親の離婚の原因は父親の浮気なんだ。どうして浮気をしたのかは俺が中学生になってから父さんが話してくれた。相手は同じ会社に勤めていた人で、その人は親から実家に戻って、見合いをして結婚するように強く言われていて、それを受け入れるつもりでもいた。だけど、親の言いなりではなく自分の意思で好きな人に抱かれたいと願って……その好きな人が父さんだった」

「そうだったんだ……」


苦しそうに話す広海くんの手が微かに震えていたから、私はその手を上から抑えるように握った。何を言われても、何を聞いても大丈夫。

広海くんの吐き出す苦しみを全部受け止める。


「父さんはもちろん母さんが好きだったから、その人の頼みを断った。でも、たった一度だけでそれ以上は求めないし、思い出をくださいと泣きながら懇願されて、断り切れなく……一度だけ抱いた。二人だけの秘密だし、誰にも知られることがないはずだったのに、母さんにばれたんだ」


妻の勘を侮ってはいけない。