仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
第三章 甘美なるイジワル
あれから常盤社長は仕事に戻られたようで、私が撮影現場にスタンバイした時には既にブライダルサロンにはいなかった。

その後、ディレクターさんから大きな駄目出しは無く。
むしろ「表情がまるで違いますね。かなり良くなってますよ!」と褒められた。

表情が良くなってることは素直に嬉しいし、この広告が素晴らしい作品になるように頑張って演じているけど……!

私はその原因を思い出して、言いようのない困惑と羞恥心に駆られる。


脳裏に焼きついた、あの甘くとろけるような視線が忘れられない。

常盤社長のキスの感触が残っている唇へ意識が向かうと、いてもたってもいられないくらい胸がぎゅうっと締めつけられた。



本日分の撮影を終えると衣装から私服に着替える。

「お疲れ様でした」

今日一日とてもお世話になったヘアメイクさんに挨拶しながらフィッティングルームを出た時には、時刻は既に夕方を過ぎていた。 


通りに面しているショーウィンドーから夕陽が射しこんでいる。

絵コンテや台本の入ったバッグを片手にフロアを歩いていくと、受付のソファには、長い足を組んで座る常盤社長がいた。

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