バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
どこかに存在するはずの答え
 貴明との衝撃の再会から、もう十日。

 そぞろ足だった秋の気配がどんどん濃くなり、だいぶ日も短くなってきて、空が夕暮れ色に染まり始めたと思うそばから夜の帳に覆われてしまう。

 穏やかな黄色味を帯びたライトが照らす廊下を、フラワー部門スタッフルームに向かって進む私の耳に、貴明の申し訳なさそうな声が聞こえてきた。

『ごめん亜寿佳。いろいろ考えてみたけど無理だよ』

 スマホを耳に押し当てた私は、廊下の窓から見える薄闇に包まれた秋のガーデンを横目で眺めながら、ため息をついた。

「やっぱり?」

『うん。これ以上の予算を捻出するのは無理』

 だろうなぁ。話を聞いた限りでは、たぶんそうだろうとは思ってたけど。

 心の中で呟きながら、私は手に持った試算表を眺めた。

 表には、貴明夫妻と赤ちゃんと、奥さんの実家のご家族だけが参加するという式の内容から計算した、おおよその費用が記入されている。

 ボヌシャンスでも少人数制挙式のプランもちゃんとあるし、一般的な挙式より格段に費用は抑えられるけれど……。

『無理だよ。高すぎる。俺たち貧乏だもん』

 スマホ越しに貴明の悲鳴が聞こえてきた。
< 160 / 206 >

この作品をシェア

pagetop