『萌奈(もな)、そいつ誰?』


スマホから聞こえる、嫌に冷静な声音は街の喧騒に負けて私の耳には掠れるほどしか届かなかった。


液晶画面に桐谷の名前が出ていたから、着信が彼からだと分かって出た。


意外と冷静に。


少し驚いたのは、彼の言葉から彼はきっと今のこの状況を見ていて、その場で私に電話をかけてきたんだろうってことに対してだ。


私には無理だったから。


まぁ、でも私の場合は彼以外の男性と、ただ食事に行って並んで歩いているってだけだったから、疚しさなんてチリ程もないけど。


流石に、もし私がキスでもしていたら、桐谷だってショックで電話なんかしてこれなかったと思うけど。


「得意先の田丸さん」


だから、聞かれたことに淡々と答えることができた。


『あぁ、あの人田丸さんか。で?2人きりで会う必要があったのか?』


さっきよりも聞き取りやすくなったのは、桐谷の声に怒気が含まれていて、多分そのせいで声が大きくなっていたからだろう。


「ご飯に誘ってもらったから」


『は?ご飯に誘われたら、誰にでも付いて行くわけ?』


「……誰にでもってわけじゃないけど」


思わずスマホを耳から遠ざけた。

拡声器を通して怒鳴られてるみたいで耳が痛い。



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