副社長の一目惚れフィアンセ
ナオは小さく微笑み、ゆっくり右手を伸ばして私の両眼を覆った。

真っ暗な世界に、ナオの声だけが響く。

「”…俺のことは全部忘れて。明里は詩織の分まで生きて”」

手が離れて、眩しい光が瞼の裏に差し込んだ。

「気休めのつもりだった魔法は、不思議だけどちゃんと効いてたんだな。
15年経って俺に会っても、明里は全然俺に気づかなかった。
詩織の話は時機を見てしようと思ってた。
でも、お母さんの話を聞いたら言えなくなった。
明里は詩織と比べられることでたくさん傷ついてきた。
俺が詩織のことを打ち明けたら、一目惚れは詩織の代わりだと思われるだろうし、明里は傷ついて離れていってしまうと思った」

そこまで言って、ナオは疲れたように目を閉じ、また息を吐いた。

「ごめんな、明里。どうすればいいのか考えている間に、明里は俺と詩織のことを知ってしまったんだ。
結局傷つけてしまった。本当にごめん」



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