愛は、つらぬく主義につき。
1-1
「おじいちゃんの、古希祝い?」

『堅苦しいもんじゃないんで、ぜひ顔を出してもらえませんかね』

 相変わらずの渋い声で、スマホにかかってきた電話の相手は哲っちゃん。

 まだ一週間の真ん中で明日も仕事。そろそろ寝ようかと、お風呂から上がって肩よりちょっと長いぐらいの髪を、無造作に乾かしてる最中だった。
 ドライヤーの割りとうるさい風に雑じって、なんか違うリズム音が聴こえる。って思ったら。洗面化粧台の収納棚に置いてたスマホがヴーヴー震えてた。
 “遊佐 哲司(ゆさ・てつじ)”の表示に思わず小躍りして、思いっきり愛想よく出たのに。
 なんでデートの誘いじゃないかな。哲っちゃんのイケズっ。

『宮子(みやこ)お嬢が来てくれるのが、会長には何よりですし。大姐さんも親父も、口には出しませんが寂しがってるんですよ』

 この際、お父さんはどーでもいいけど。うーん。頭を捻った。

 来週の金曜、3月28日は。
 あたし、臼井宮子(うすい・みやこ)の祖父、臼井茂之(うすい・しげゆき)の70歳の誕生日で。めでたくも古希ってヤツだった。
 家を出た身でも何かの行事にはちゃんと帰ってるし、お祝い自体は行きたくないワケじゃない。ただ。招待客がいつもより多そうなのが面倒くさいだけ。あたしを知らない客にいちいち自己紹介して回るのかと思うと、今からうんざりだけど。
 しょうがない。腹をくくる。

「実家(ウチ)でやるの?」
 
 セキュリティだの警察だのの根回しを考えたら、たぶん臼井の家でやるのが一番手っ取り早いハズ。
 『はい』って答えた哲っちゃんの返事も予想どおりだった。

「うん、いいよ。哲っちゃんの頼みじゃ断れないもん」

『そう言ってもらえると、助かります』

「じゃあご褒美に今度デートしてね?、約束」

 悪戯っぽくクスクス笑うと。

『真(まこと)が首を縦にふるなら、自分は構いませんがね』

 哲っちゃんは少し笑んだ気配で、余裕そうに遊佐(ゆさ)の名前を口に出した。
 ほんと、イケズなんだから。もう。
 スマホに耳を澄ませながら、ひとりで頬を膨らませ。あっさり降参。
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